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2012年2月16日 (木)

第56回 積極的に背伸びせよ

◇ 城山三郎の叱咤激励


    背伸びして視野をひろげているうち、
    背が伸びてしまうということもあり得る。
    それが人生のおもしろさである。
    人生は挑まなければ、応えてくれない。
    うつろに叩けば、うつろにしか応えない。

           『人生の流儀』(新潮文庫)


  背伸びをしなければ背は伸びない

 実力以上のことをしようとしたり、本当の自分よりもよく見せようとしたり、格好をつけて自分を着飾ってみても、結局はどこかに無理が出てしまう。だから、背伸びをしないことが大事だと言われます。これに反して城山三郎は、「背伸びして視野をひろげているうち、背が伸びてしまうということもあり得る。それが人生のおもしろさである」と、むしろ積極的に背伸びすることを奨めています。
 背伸びをして視野を広げると、不思議と実力が上がることがあります。背伸びをすることで高い目標を掲げることになり、その目標に向かって経験や思考を活用すれば、自分自身から多くのものを引き出すことになるからです。
 司馬遼太郎は「人間、思いあがらずになにができましょうか。(中略)才ある者は思いあがってこそ、十の力を十二にも発揮することができ、膂力のある者はわが力優れりと思えばこそ、肚の底から力がわきあがってくるものでござります」と『国盗り物語』に書いていますが、才能や力のあるなしにかかわらず、目標を立ててそれに向かって背伸びをしてこそ、十の力を十二にも発揮することができるのです。
 自分の力量に応じて無難に一〇〇パーセントをねらって達成できないと、九〇パーセントに目標を下げる。それでもうまくいかないと、八〇、 七〇と目標がどんどん下がっていく。だからといって二〇〇パーセントをねらえば失敗する。そこでちょっと背伸びをして、一一〇とか一二〇パーセントにねらいを定めると、ときには達成できるようになる。そんなことを繰り返していくと、いつのまにか一二〇パーセントのパフォーマンスがあたりまえになる、という話を読んだことがあります。
 このように少しずつ前に進んでいるという達成感はとても大事です。その感覚を味わうためにも背伸びは欠かせません。背伸びをしないと背は伸びないにもかかわらず、今の社会や教育は、型にもはめないけれど、けっして無理もさせないという風潮になっています。誰にでも「背伸びをしたい」という気持ちがあるのですから、その芽をつんでしまう手はありません。

  人生は挑めば応えてくれる

 野上彌生子は、人間がある以上のものに自分を見せたがる心理は、よく考えると、なかなか大事なことだ。それは、正義や美や愛がいかに貴重であるかを認識しているからである、と言っています。城山三郎は「気骨の人」と評されますが、それは彼が正義ということを認識していたからにほかなりません。
 城山三郎の妻が亡くなったとき、アメリカから急きょ帰国した長男が葬儀場で目にしたものは、祭壇の中央に置かれた著名人からの花輪を脇にどけて、そこに妻と親しかった人や親戚からの花輪を移動させている城山の姿だったそうです。
 城山三郎は作家としては遅まきのスタートでしたが、経済小説や評伝に新機軸を打ち立てようと、「筆一本、箸二本」をモットーに、壁があると思えば本当に壁が立ちはだかってしまうが、大人が一年間ムキになってやれば、たいていのことは立派な専門家になれる、と自らを叱咤して精進したのです。城山三郎は、心の芯をぶれさすことなく背伸びをしてきた人だと言ってもいいのではないでしょうか。
「人生は挑まなければ、応えてくれない。うつろに叩けば、うつろにしか応えない」と城山三郎は書いていますが、背伸びをして挑めば、必ずや応えてくれるものがあるのです。

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